本研究の成果は次の4点にまとめあげることができるだろう。 第1は、「『中学生のみた昭和十年代』と個人生活史研究-三段階の分析の試み-(現在までのところ5本の紀要論文として発表済み)とS・フロイトの『ヒステリー研究』の一症例の再解釈を行なった論文という形で、事例媒介的アプローチの成果を提示したこと。これらは、本研究の成果の主要部分と考えているものだ。 第2は、生活史現象把握のための見取り図の提示ができたことである。今回の研究を通じて、《生活史現象把握のための3水準と3局面》という形でにつめることができた。それらは、《生活体験》、《生活史データ》、《生活史テクスト》の3水準と、《生活体験》生成・析出、《生活史データ》産出・析出、《生活史テクスト》産出の3局面である。この見取り図は、個別の関連文献の検討を通じて浮かび上がってくる生活史現象に関わりのある主要な主題群を位置づけていく際の基本的枠組みとして活用しようとするものである。 第3は、この見取り図をも視野に入れながら、主要な主題群を析出を行なえたこと。それらは、(a)《意味のポテンシャル》論、(b)自己体験論、(c)生活史インタビュー状況論、(d)《自己に関わる物語》論、(e)《登場人物あぶり出し》論、(f)《生活史データ》絞り込み論、(g)生活史テクスト構成論、(h)《生活史テクスト》のタイプわけ論、(i)生活史記述論である。 第4は、《意味のポテンシャル》論を提起したことである。この中には、《意味のポテンシャル》の意味や《意味のポテンシャル》の現実化をめぐる議論、さらには《意味のまとまり》の個別レベルでのできやすさと超個別レベルでのできにくさについての議論が含まれる。
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