本研究では、まず、諸外国の環境社会学の動向、とくに原生林保護と地域振興との関連を明らかにした文献研究をおこなった。その結果「持続可能な発展」概念をめぐって、多くの議論がなされており、本研究では、とくに、「共生性」「自律性」「持続性」の諸概念の理論的展開がまとめられた。つづいて、上述の理論研究にもとづき、原生的自然地域での実態調査のための作業仮説とデータ分析法が検討された。本研究では、北海道知床半島の斜里町、とくにウトロ地区を中心に面接調査を行なった。まず、自然資源をめぐる社会的対立を焦点に、林業労働者、観光業者、農業者、漁業者、役場担当者、および、環境省での担当者から資料収集とインタビューを行なった。その結果、知床論争がさかんであった時期に比して、明らかに、人々の環境意識は低下しており、開発派が優位となっている。また、町長も自然保護志向から地域振興志向へと転換しており、都市部の環境団体の支援がなくなった現在、地元の環境団体や地元住民の環境保護運動は極めて低調となっていることが明らかになった。現在、上述の調査結果にもとづき、本格的な住民意識調査を実施するための調査枠組、調査票、データ分析法について最終的な検討をおこなっている。その際、国際比較の視点から、ギャロップ国際研究所が実施した『地球環境の健康診断』の調査や、環境省が実施した環境意識調査を参考しながら、自然環境の評価、伐採による社会的影響評価、地域づくりのニーズ、アセスメントに関する調査項目を検討している。今後の課題としては、知床半島や道東を含めた、より広汎な地域を対象とするインタビューと他の原生的自然地域との比較研究も予定されている。これらの研究を通して、原生的自然地域における自然保護と地域振興の調和に関する政策提言が可能となると考えている。
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