本年度は、昨年度から収集してきたデータと本年度収集したデータの分析を試み、(1)学校の組織特性と教職観の関係、(2)入職後10年未満の若年教師における教職観の変容、について検討を行った。いずれも同一県を対象とした質問紙調査の結果である。 (1)学校の組織特性と教職観の関係 学校の組織特性として、(1)教師間の共通性指向と(2)教師の個別的裁量性の2つをとりあげ、これらと教師の指導観ならびに職業観の関係について分析を行った。その結果、学校の組織特性と指導観との間には次のような関係が見いだされた。すなわち、学校組織特性のうち個別的裁量性は、指導の個別的関与性を高める方向で作用し、一方、学校組織特性の共通性指向は指導の調歩性を高める方向で作用することがみとめられた。このことから、教師の指導観形成には、その学校の組織運営の特徴が反映することが示唆された。 (2)若年教師の教職観の変容 教職経験が10年未満の教師を、経験年数により3群(第1群=3年未満、第2群=3年以上5年未満、第3群=5年以上10年未満)に分類し、それぞれの群の教職観を比較した。指導観に関しては、教師の子どもに対する積極的な関与を肯定する指導観は、第1群の教師が第2、3の教師群よりも顕著であった。また職業観では、第1群、第2群、第3群と経験が長くなるにしたがい、教職の社会的意義や評価を低く認知する傾向にあった。また、教職にともなう労苦は、第1群と第2群の間で顕著な相違がみられ、経験が5年を越える頃から教職には犠性や労苦が伴うとする認知が顕著になることが見いだされた。また、このデータにおいても組織特性の認知と職業観、指導観との間に一定の対応的関係が見いだせた。
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