イギリスの教育改革は、90年代に入ってカネとヒトを中心とした経営面での具体的な改革の実施へと移行しつつある。本研究者は90年代の最初に、日本でいち早くカネの面での改革動向に着目し、学校経営の自主的管理・経営の意味や課題を考察した。それは、学校予算の執行権限を教育行政機関=地方教育当局LEAから各学校の校長と学校理事会に委譲し、自主裁量権を大幅に承認した実態についての詳細な分析であった。 その後私は、研究関心をヒトの面での改革にも広げ、教員の職務遂行能力の評価Teacher appraisalをめぐる改革動向の分析と実態調査を研究課題とした。具体的な研究活動とその成果は次のように要約できる。 第一には、西川信広と協力して、教員評価を教員の職能成長という視点と、もっぱら学校における人事管理、現職研修の側面でとらえ、学校経営における「質」の向上、Quality Controlという視点からの両面から論じた論文を日本教育経営学会紀要に発表した点である。 このことと関連して、教員評価に関連して独自の方針を策定しているLEAから、その政策方針と研修資料を収集し、分析を行った。特に、研修用のビデオやマニュアル等の収集は、これまであまり実行されなかった研究方法であり、視聴覚研修材料の収集整理は、日本における教員研修の資料づくりにも大いに参考になる価値の高いものと判断された。 第二には、教員評価の評価者と非評価者間の交渉過程や専門的対話などの重要な意義を発見したこと、評価結果をもっぱら職能成長の資料に利用するのではなく、実績評価給Performance Related Payのように人事管理に一面的に利用されたときの問題点について、多くの教員団体や学校理事会団体が批判している現状を現地調査の上で検討した点も、本研究の特色といえる。さらには、アカウンタビリティ論や公共サービスの質の向上といった視点から、どのような問題があるかを検討した。
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