本研究は、「教育困難校」における近年の「学校文化」の変容を調査・分析することをとおして、これからの大衆的高校教育のビジョンを考察したものである。得られた知見として、 1.「学校文化」の外枠を構成するものとして、教育課程の構造、評価システム、生徒管理システムの3領域を中心に、この間の変容の動向を明らかにした。全体として、高校が今や「義務制の大衆学校」であると言う認識に立って、フォーマルな「学校文化」を再構成していく方向がひらかれつつある。 2.フォーマルな「学校文化」に対する対抗文化としての今日の生徒文化、若者文化の動向を分析した。分析概念として、W.J.オングの「声の文化(オラリティ)」と「文字の文化(リテラシー)」を用いた。今日、若者文化の中に、新たな形でフォークロア現象をともなう「声の文化」が復興しつつあること、それに対し、フォーマルな学校文化が伝統的な「文字の文化」のもつ思考・表現・メンタリティにみずからを閉ざしていること、ここから、今日の教育困難の文化的背景として、文字の文化と声の文化との対抗という構図をうきぼりにすることができる。 3.研究の後半の過程でうかびあがってきた、「共通教養(共通文化)」論の再考を中心とする「文化と平等」をめぐる問題に一定の考察を加えた。とりわけ平等文化(イコールカルチャー)とは異なる共通文化(コモンカルチャー)の今日的意義を明らかにすることで、中等教育の多様化の動向に対する一定の知見を得た。
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