今年度は、第一次世界大戦後に繰り広げられた生活改善運動について考察を探めた。というのも、生活改善運動が改善の対象として扱った日常生活は、女性が担うべきものと考えられていたので、その改善がめざされることは、既婚女性が社会教育の対象者として浮かび上がってきたことを意味しているからである。つまり、既婚女性に対する教育のあり様を考察するにあたって、生活改善の問題は重要な糸口となるのである。 生活改善の必要性は、3つの観点から論じられていた。一つには、大戦中の物価騰貴や戦後の不況にために、生活難、食料難が問題化し、それに対処するために、家庭内で節約・倹約が求められたことである。二つには、単なる節約をこえて、もっと生活そのものを改善し、欧米並の「文明化」された生活を作っていくこと、それがひいては国家の発展、国力の増大につながると考えられたことである。そして三つには、欧米の女性に比べて「遅れている」日本女性を改造していく一つの方策として、家事の合理化の問題が登場し、科学的な頭脳、進取的な態度の育成がめざされたことである。 このような観点から生活改善の問題が取り上げられ、既婚女性に対する教育が開始されたが、それは、文部省による衣食住の合理化に関する展覧会、地方の指導者を養成するための講習会、女性を対象とした成人教育講座の開催、といった方法で進められていった。そして当初、衣食住に関する生活改善として始まったものが、次第に育児、家庭教育と課題を広げていくとともに、政府ばかりでなく、民間団体による実に様々な展覧会や講習会、講演会が開催されていったことが明らかになった。
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