本研究は、これまでの日本の家族研究において見過ごされてきた、親と既婚の娘との関係から日本の家族を再考する一視点を提供しようとするものである。 今年度は、前年度に引き続き、新潟県岩船郡朝日村において、フィールドワークを行った。この際、既婚女性が結婚後、一定期間にわたって行っていた生家訪問慣習の形式が異なる二つの村落を対象とした。その結果、生家訪問形式の差異は、家族関係・婚姻形式の差異、女性の地位と関連していることが明らかになった。つまり、一つの村落は、既婚女性が毎晩のように夫と共に生家に戻って休息をしていた地域である。ここでは村内婚・恋愛婚が前提となり、その夫婦関係は緊密であり、平等的である。もう一つの村は、既婚女性が長期的に生家に戻って生活し、自分と子供の衣服を整える「センタクガエリ」を行う地域である。ここでは、女性は婚家においては、「嫁」として低い地位にあり、生家に戻る期間は夫婦は隔離されることになる。二つの形態の差異は、夫の行動パターンの差異でもあり、夫が「家」の枠組みから出て妻の生家と緊密な関係をもつ社会のほうが、女性の意思が尊重され、夫婦中心的行為をなす。このような夫婦のあり方あるいは妻と生家との関係は、日本の「家」制度とは矛盾するものであるが、日本の家族にかなり普遍的に見られるものと考えうる。新潟の事例は、日本の家族について、夫婦の紐帯、女性の家族内における地位を視点として再考する上で、重要な意味をもつ。 現代都市における既婚女性と親との関係に関する研究では、中高年女性の家族に対する観念・行為、親との同居に関する資料を収集した。このなかにも結婚した娘と生家の親とが、「気安い関係」として相互に緊密な関係を維持しようとする志向をみることができる。
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