平成4年度においては、次の調査を実施した。 1、惣川周辺の峠の現状を踏査し、その遺存が比較的良好な棟峠について現状を測量し、かつての峠道と重ねながら復原するとともに、棟峠の住民の移動史をほぼ明らかにすることができた。 2、峠を越えた流通物資と流通圏、その運送方法、及びその歴史的変遷の概略を把握した。 3、背負梯子などの運搬具に関する記録化を進めた。 4、棟峠に関する古写真の調査収集を進めた。 5、駄賃持ちの経験者から聞取り調査を実施した。 6、周辺町村の町村史誌などの文献収集を実施した。 その結果、次のような知見を得た。 1、惣川から出た産物は原材料が多く、その流通はいわゆる産地と直結する傾向があり、その結果多方面にわたる流通経路が形成されてきた可能性が考えられるようになった。 2、惣川周辺の峠は、大正期から昭和初期にかけての頃に大きな変動を受け、交通路として衰退するようになる。 3、広域の流通交流圏から捉えれば、惣川のような山村にとっては河川(肱川)の果した交通路の役割が重大であった。 4、人びとの最近の交通状況として、林道を車で抜けて広域的に結び合う志向性が生まれており、このコースは従来の峠道と重なり合い、峠道の現代的復権が図られつつある状況を示すとも見られる。
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