平成5年度においては、4年度の成果を踏まえて、次のような調査研究を実施した。 1、峰(棟)峠にかかわる種々の伝承の収集 2、往還道利用の時代から新道の開通に伴い惣川の人びとに生じた日常行動圏の変容に関する調査 3、昨年度調査内容に関する補充調査 4、2年度にわたる調査成果を整理・分析し、報告書にまとめて刊行した。 以上の調査研究により、次のような諸点が明らかになった。 1、徒歩や牛馬の利用から自動車へという交通手段の転換に応じて、交通路は峠道から次第に山腹、谷底を走る道へと変わってきた。 2、峠道は大量・高速に物や人を運ぶことはできなかったので、さまざまな方面にぬけるためにいくつもの道が開かれ、多様な地域との交流が図られてきた。 3、交通路が峠道から谷底へと変移したことは、住民の日常的交流圏を特定地域に固定化する結果を招いた。旧惣川村が野村町に合併した要因の1つはここに求められると思われる。 4、谷底の川筋に沿って走る自動車道は、上流域に暮らす人びとを下流域に強く結びつけ、上流域住民が利用する交通・交易ルートを単一にし、結果的に奥まった辺境集落を出現させた。 5、自家用自動車の利用が盛んになるにつれ、新たに開かれた林道等を利用してさまざまな地域との多様な交流を再生させる動きが現われており、峠道の現代的復権の兆候として注目される。
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