昨年までの調査において、糸満系潜水漁民の生活文化は、沖縄社会全体における変化に対応し、自己展開をとげていることを確かめた。その要因の主なものは、観光化現象であった。 本年度は、石垣市内での魚の販売経路、ならびに消費パターンの変化を調べた。その結果、潜水器の導入により1970年代から始まった特定魚種の乱獲は、販売経路や消費パターンには大きな影響を与えていないという結論に達した。しかし、これからは販売経路には大きな変化が予想される。つまり、那覇市県魚連では東南アジア(フイ リピン)から多量の魚が輸入され始めたからだ。輸入魚の種類は、沖縄では高級化したスジアラやシロクラベラなどである。高価な魚種であるこれらの魚が、地元魚にたいして安値で販売される。沖縄独自の食文化を保護する意味では重要な輸入魚も、ウキジュをとおした販売経路には、近い将来大きな影響を与えるであろう。 また、石垣市の八重山漁業共同組合も、セリ市場の導入を計画している。もし、近い将来これが実現すれば、これまでのウキジュや冷凍業者などに依存していた地元での販売経路も大きく変化することになろう。 以上のような流通面での変化が、乱獲などによる漁獲高の減少よりも、さらに大きな変化をもたすことになろう。したがって、ウキジュという個人的な人間関係を紐帯にした販売過程から、セリという非個人的な販売過程への転換は、登野城や新川という糸満系潜水漁民の集落における社会組織上の変化へと連動すると予測される。
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