本研究の目的は、糸満系潜水漁民の伝統文化とその変容を実地調査にもとづいて解明することにある。特に、漁民たちの民俗知識や漁法などを、聞き取り調査ではなく参与観察を行うことをとおして調べた。その結果、八重山地方全域の漁場名称、漁種、夏期と冬期の漁法、ならびに魚の習性について、これまで不明だった部分が明かになった。 糸満漁民の伝統的な文化は、もちろん変容している。そのような変容を促進している重要な要素の一つとして観光現象に注目した。近年、漁民も積極的に観光に携わりだした。その一例として、「ウミンチュ体験観光コース」を分析した。その分析のなかで、沖縄の観光化により、〈海〉がイメージアップされ、それにつれて沖縄社会における漁民の社会的な地位も向上しつつある。また、ハーリーなどに代表される漁民文化の沖縄社会全体にたいする意義も、急速に変化していることを指摘した。したがって、漁民文化の変容は、必ずしも伝統文化の崩壊を意味するのではない。むしろ、日本社会における沖縄の持つイメージを利用しながら、漁民が文化的なアイデンティティを主張するプロセスとして、現在の観光漁業を捉えることも可能である。 今後の課題は、経済的な活動としての潜水漁業が、現代社会のなかでどのような文化的な意味を付与されているか、という問題を探究する必要がある。潜水漁業は「古代日本の生活」を知るための資料を提供してくれるのではなく、現代人が自己をどのような人間として規定しているかを知る手がかりを提供してくれると考える。
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