本年度は、海運と河川水運の関連が探れる史資料の所在状況について東日本の広い範囲にわたって調査した。千葉県より北海道に至る太平洋沿岸部を中心に、主に県レベルの図書館・文書館等を尋ね、公刊されている各種自治体史から海運や河川水運に限らぬ陸上交通を含めた交通史関係の史資料、さらには流通や文化の交流という広い観点から史資料の所在状況について確認した。その結果、学界での研究以上に、各地で特色ある自治体史が編まれ、新しい史料が発掘されたり、あるいは旧来より知られていた史料群に整理の手が施されて利用可能な状態になるなど、研究の基礎作業が着実に進められているということが判明した。本年度は、東廻海運と利根川舟運の連続性という視点に立って、大熊孝編著・平凡社叢書『近代日本の技術と社会』第4巻『治水と利水』に「舟運路の開発と舟運技術」(1993年4月刊公予定)をまとめてみた。これは、私のこれまでの研究で進めてきた、東廻海運の廻船が近世前期においては霞ヶ浦の南端潮来にまで廻着していたことに基づき、この海上を航行する廻船に大きな技術的影響を受けて利根川舟運のかくも大型な高瀬船が形成されていったこと、および、それの航行に適合する形で利根川が改修されていったことを予測した上でまとめたものである。しかしながら海運と河川水運をつなぐ史料については、むしろ河川水運を利用して三都市場につながっていくような内陸部の在方商人、あるいは三都を含めた都市商人の側に関連の史料が見い出せるのではないか、との予測も得られた。次年度は、今年度確認できた史資料の収集に務めると共に、上記の反省点に立って、内陸部についても、また本年度末着手に終った日本海側の諸地域についても調査の範囲を広げていきたい。
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