本研究は、今後とも継続されるべき研究の第一段階として、まず現地調査に基づく関係史資料の収集に最大の力点を置いた。その一つが、東廻海運と関東河川水運との連結という観点から、常総地域に的を絞った調査となり、原史料のマイクロフィルムによる収集となって結実した。千葉県佐原市の伊能忠敬記念館収蔵史料や千葉県立大利根博物館所蔵・奈良屋文書など、これまでその存在は知られていたものの、一部を除いて本格的な研究にはほとんど利用されてこなかった貴重な史料を収めることができた。また、茨城県側では、水戸藩の輸送機構を藩職制の中に位置づけて考察すべく、海老沢律役奉行について調査した。今回は収集史料の分析を完了するまでには至らなかったが、これまでの研究の継続性において次の二点を展望することができた。一つは、近世初頭の利根川改修工事を大型船を就航させるための水深確保といった観点からのみ捉えるのではなく、帆船の走行上、広さ、川幅の拡張という観点からも追求すべき点であり、もう一点は、三都と仙台城下町商人をつなぐ遠隔地間交易に果した海運と河川水運の一体的な輸送機構についてである。他方で、東日本の広い視野の中で海運と河川水運の接続を考えようとする視点は、各種自治体史を網羅的に調査する結果となった。その一部を今回は、日本海沿岸諸地域における海運と河川水運に基づく地域間交流のあり方として概略的にまとめることができた。海運と河川水運とを統一的に把握しようとする本研究は、まだその端緒についたばかりである。この二年間にわたる調査・研究は、水運史を陸上交通とも絡めた総合的な交通システムとして捉えるべき視点を明確にさせた。と同時にまた、近代化過程における連続面と断絶面についても考察すべき新たな分析視角を浮かびあがらせてくれた。今後、さらに研究の深化をはかりたい。
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