本年度の研究は主に、次の二点のテーマについて行い、以下のような成果を得た。1)19世紀ドイツの国民的記念碑とナショナリズムに関する研究。19世紀にはドイツ各地に多くの国民的記念碑が作られている。それら記念碑は大きく、(1)ライプツィヒ諸国民戦争(1813年)の記念碑、(2)普仏戦争(1870/71年)の記念碑、(3)ゲルマン主義の記念碑に分類できる。これらについて、筆者が実際ドイツにおいて現地調査した資料(写真を含む)を整理し、記念碑の意味するものを図像学的に分析した。またその記念碑建設のための運動、特に射撃協会、体操協会、合唱協会の運動を研究し、ドイツ統一をめぐる国民的運動のイデオロギーを明らかにした。またヴァーグナーの楽劇等のドイツ・ロマン主義音楽とドイツ・ナショナリズム運動との文化的関連について研究した。2)ドイツ「再統一」と「過去の克服」に関する研究。ドイツの戦後についてはわが国との比較上とりあげられることも多い。今回特に東京女学館短期大学助教授清水正義、長崎総合科学大学助教授芝野由和両氏とドイツにて共同で調査した資料を整理し、議論を重ねることによって問題点を明らかにした。とくに(1)ドイツにおけるナチズム後の歴史意識、(2)「再統一」後の「過去の克服」をめぐる議論の展開、(3)ドイツの「賠償と補償」について、研究した。例えばドイツにおける「賠償と補償」の問題について、は最近わが国との比較で問題にされることも多いが、この問題をとりまく状況は複雑であり、比較の難しい点も多い。今後さらに検討していきたい。
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