この研究は、土器のを自然科学的手法を用いて分析し、材料の選択、製作技術の差などを明らかにすることを目的としており、本年度は、とくに土器の材料の選択と高温焼成技術にともなって意図された材料の確認の2点を中心に研究をすすめた。 1 土器の材料の選択:先火時代の土器にも器種や用途によって材料の選択がなされていたことについては、いくつか成果発表している。本年度は、単一の墳丘墓へ供献された特殊器台と長頚壷の中に、2種の材料を区分して製作したものがあることを明らかにした。明らかに混和材の差であることから、供献を担った複数の集団の意図が表われているものといえる。この研究の詳組は『楯築弥生墳丘墓の研究』に発表している。 2 高温焼成技術と材質:須恵器や陶器のような高温焼成品の材料として、海成粘土は適さないという一般的な理解がある。前年度までの研究で、海水中の多量のイオウ成分が関係し、イオウ酸化物が粘土鉱物の破壊変質をもたらすことがその原因の一つであることが明らかになった。 本年度は、同一窪跡中で容融したものと融解変化をうけていない資料を得て、イオウを中心とする元素組成の比較をおこなった。両者の間でイオウ含有率の差は見出せたが、海水にもとづく成分であるのか否かについては未解決であり、来年度以降この点を中心に深めていくことが必要である。 また、成形技法としてロクロを採用したか否かの分析については、蛍光発光法によって粘土紐の確認を実施中である。この研究の一部は、平成4年3月に国立歴史民俗博物館で行なわれた「重要歴史資料調査分析研究会」の席で発表した。
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