研究概要 |
この研究は土器の胎土を自然科学的手法によって分析し,土器製作における材質の選択や,成形にあたってどのような技術が用いられたかを明らかにしようとするものである。本年度はとくに(1)高温焼成物に対する粘土の適合性が何によって左右されているかの確認と,(2)土器成形のさいに粘土紐巻き上げ法を用いたかロクロ水挽き法を用いたかの区分ができる分析法の基礎的検証をおこなった。 (1)については,前年度高温焼成物に海成粘土が適さないという従来からの理解を化学的に検証するため,同一窯跡の溶融した窯壁と溶融していない瓦の両者の分析を実施し,元素の上から硫黄成分の差は見い出せたが,これが海成粘土の特性であるかの関係は明確にはできなかった。今年度はさらに,溶融した窯壁資料に含まれる黄色の粉末粒子を収集し,X線回折分析によって結晶を調査した結果,CaSO_3とCaSO_4・2H_2Oを検出し,海成粘土の化学的性質の特徴をこれらの成分で識別できる可能性を見い出すことができた。今後の課題は,堆積粘土と高温下で焼成をうけた粘土との化学的変化および溶融化との因果関係を明らかにすることである。 (2)については,焼成された土器・陶器の粘土接合部を認識する分析法として,胎土中に螢光剤を抽入しその発光によって他の部分との差を見い出す基礎的な分析をおこなった。粘土の微細な単位を視覚的に認めることができ,須恵器などの成形技法の差を明らかにする上での有効性が明らかになった。
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