1.硬玉、軟玉の原産地調査と原石群の確立では、原産地調査は兵庫県大屋町のヒシロ谷を行なった。産出の硬玉は白色で、比重が3.2以下が主体で、同質様の玉類が出土することから、大屋産原石が使用されていると報告されている。大屋産ヒスイでは、Sr/Feの比が比較的大きく、この比値で長崎産、日高産、引佐産の各原石と区別ができることが判明した。しかし、糸魚川産、ミャンマー産、大佐産、若桜産との比較では、一部重なるところがあり相互に区別できない原石がみられた。また、静岡県引佐町のヒスイ産地の原石調査では、Ca/Siの比値で糸魚川産、大佐産、若桜産、大屋産と、Sr/Feの比値で長崎産と容易に区別できることが明らかになり、北海道富良野地域空知川流域で採集される軟玉原石は、日高産地で採取される原石と同質の組成であった。2.碧玉の原産地調査と原石群の確立では、産地間を弁別する指標として蛍光X線分析による元素分析に加えて、イオン、色中心などの常磁性種のESR信号を用いて、石川県二俣産、愛知県土岐産、島根県花仙山産、新潟県猿八産、兵庫県玉谷産の区別が確実に行えるようになった。また、碧玉の原産地調査では、玉谷原産地から約10Km離れた八代谷産地からの碧玉は、玉谷産と同質であることが判明し、兵庫県山南町の石戸産地の碧玉は、ESR信号は玉谷産に一致するが、元素組成は石戸産独特であった。また、北海道の西興部村の興部産の碧玉は、g=2.0023付近に半値幅が約10ガウスのシングレットのESR信号を示し、また組成の上からは、鉄元素の含有量が高く、容易に他の産地の原石と判別が可能であった。3.これら玉類の原材産地分析の結果では、北海道の5遺跡、九州の3遺跡、山形県、愛知県の遺跡の硬玉製玉類に糸魚川産のヒスイが使用され、兵庫県新方遺跡で玉谷産が、同県箱塚古墳、徳島県蓮華谷古噴群で花仙山産碧玉が使用されていることが明らかになった。
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