今年度は、本研究の目的を達するための基礎的な資料調査に主たる力を注ぎつつ、体系化の手段・方法等について研究を進めた。 (1)京都・奈良地方の大学図書館、また金沢文庫などに所蔵されている近世漢字音資料の調査を行った。体系化には、呉音・漢音・唐音加点の『聚分韻略』が有力な資料となることがあらかじめ予想されたので、この書を中心として作業を進めた。好個の資料であることは確認されたが、いずれが漢字音体系化にふさわしいものか、これは難問題であり、現在吟味中である。『聚分韻略』は漢字音資料としては、どこまでが規矩的で、どこまでが現実の漢字音と結びついているのか、もう一つ不鮮明である。この点の見極めをどのような手だてで行うべきなのか。奥村三雄氏著『聚分韻略の研究』等を参照しながら現在考慮中である。 (2)個人的に以前より収集している近世漢字音資料の吟味を、上記と同様の目的のもとで行った。近世においては唐音以外は既に字音は固定化しているので、漢字音韻学史的な観点から、個々の資料ないし漢字音学者における漢字音の体系化を行うことが、本研究の使命の一つでないか、また当時の人々の字音認識の実態に迫り、その歴史的経緯を明らかにすることも、同様に意義あることでないかと考えている。ただし、既に『韻鏡』の機械的解釈による「体系化」は『韻鏡』注釈書や『磨光韻鏡』また『漢字三音考』等においてなされている。この点を鑑みて『韻鏡』からやや離れた江戸時代の漢字音資料をこの一年捜し求めた。その結果、行智著『悉曇字記真釈』が資料としてふさわしいのでないか、と現時点では判断するに至っている。 (3)体系化には漢字音の量的処理が必要である。コンピュータによる漢字音処理について、コンピュータ処理の熟練者やソフト会社等に問い合わせをし、現段階では「ninja」が妥当という結論を得ている。
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