野田宇太郎文学資料館に所蔵されている野田宇太郎文学資料は三万点にも及ぶが、野田が文芸雑誌「文芸」(河出書房)「藝林間歩」(東京出版)「文学散歩」(雪華社)などの編集者だったので、多くの文学者・研究者からの書簡が来ていた。雑誌の原稿依頼に対する返事、著書贈呈に対する返礼、出版社紹介の依頼、文学碑建立の打ち合せ、文学散歩に関するものなど種々の書簡が二千通以上ある。封書・葉書とも複写、写真撮影を完了したので、その中で文学に関係の深いものを逐次解読しているところである。 目下、多少の伴読困難の個所を残してはいるが、約三百通について解読した。主なものを挙げると、岩永胖・岩下俊作・岩城之徳・伊藤信吉・伊馬春部・伊良子正・今泉今右衛門・河原崎国太郎・西条ハナ・小堀杏奴・島本久恵・志賀直哉・里見〓・小田嶽夫・岡野他家夫・城夏子・城左門・渋川驍・牛島春子・江間章子・大江満雄・大木実・江口喚・江崎誠致・幸田文などのものがある。 河井醉茗書簡(15通)と蒲原有明書簡(13通)については、注解作業を終了し、福岡女学院短期大学紀要第29号に発表したところである。明治詩壇で「文庫」派の指導者であった河井醉茗が敗戦後ほそぼそと「回章」を発行していた当時から「文芸」「藝林間歩」「文学散歩」に紙面を提供し、敗戦の窮状を何とか柔らげようと救いの手を伸ばしている好意が感じられる。蒲原有明についても鎌倉にひっそくしているのを何とか原稿を執筆させることによって、健康を取りもどさせようとする老詩人に対するいたわりが感じられる。
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