研究課題
我々は不定期の研究会や合同研究室での討論の場で、共同研究者一人ずつのオリエンタリズム観について研究情報交換を行って来た。それぞれの研究者は、研究計画にほぼ従い次のようなテーマを扱った。斎藤は19世紀イギリス小説、Maria Edgeworth(1767-1849)の作品に見られる西インドの奴隷の題材を取り上げ、単なる奴隷問題に限らず、「他者としてのオリエント」という視点からイギリス小説におけるオリエンタリズムの解読を試みた。有馬はT.S.Eliotの文学におけるインド思想の影響を考察し、西欧人エリオットの視点から見たインド思想とインド人や東洋人のインド思想との間の微妙な食い違いを指摘した。Robinsonは日本の詩の伝統が英米の現代詩に与えた大きな影響について話し、本人を含めた20世紀の英国詩人による、日本の詩形式の受容と、その西洋的再生を考察した。鈴木は18世紀英国の文壇を代表するDr.Johnsonを中心に、The Ramblerに散見されるような、東洋の社会・文化に対する関心を論じ、古典主義の普遍的人間性探求が東洋文化の再発見にもつながった当時の状況を解説した。石幡はロマン派の詩作品の特徴の一つである異国情緒趣味の例をKeatsのEndymionやColeridgeのKubla Khanなどに拾い、これらの作品の東洋への関心を逆に東洋からの見直しという観点から解釈してみた。また、英国留学から帰国した小沢は英国で学んだ原典考証を生かして、ルネサンス期の芝居の東方への関心をBen JohnsonのThe Staple of Newsの日本への直接的言及などに見い出し、これまで看過されてきた東方の概念を探った。これらの成果は小沢の発表(予定)論文や、石幡の新設の国際文化研究科での来年度の講義(Keatsに見る異教と東洋)になろうとしている。また、本研究は2年計画であり科学研究費の継続申請も提出してある。今後は以上の知見を統合して従来の西洋からのものに対する、東洋からのオリエンタリズム像を構築したい。
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