本研究の主要なテーマは、述語の「項構造」の構成を総合的に検討し、項構造と統語構造との対応を明らかにすることであった。このテーマに関して以下のような成果を得ることができた。 1.統語構造を画定する上で、項構造の情報のうち、θ役割の階層(主題階層)が大きな役割を果たしている。統語構造の主語の選択に関しては、「主題階層の最上位のθ役割を担う項が選ばれる」という原則を設けることができる。 2.この原則に反する典型的な事例として、心理動詞や心理形容詞など心理述語を含む構文がある。心理述語構文では、Suppress-αという、外項を抑制する操作が働いているという見解を提案する。 3.Suppress-αは、この分野で広く研究されている心理動詞の扱いばかりではなく、これまで等閑に付されてきた心理形容詞を取り扱う上でも有効であるを明らかにする。更に、主語選択の原則の一見反例と思われる受動文、中間態、-able形容詞、認知形容詞など、広範な構文を扱う上でも有効である。 4.Suppress-αにより抑制された外項は、項的な付加詞(argument-adjunct)になり、統語的には一種の付加詞として振る舞う。 5.心理述語構文は、Belletti & Rizzi(1988)等の主張とは異なり、非対格動詞ではないことを明らかにする。 以上のような成果を裏面に示した研究成果として刊行した。そのほかに、本研究のテーマに関係した討論会を、日本英語学会10周年記念特別ワークショップとして組織し、特別ゲストとして参加したLuigi Rizzi(ジュネーブ大学)から高い評価を得ることが出来た。このワークショップの成果は、日本英語学会の特別刊行物Syntax and Acquisition of Argument Structuresとして発刊される予定であり、現在その編集作業に当たっている。
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