1.一次資料の収集 シェイクスピア生前に出版された6篇の喜劇の古版本を一次資料としてマイクロフィルムで収集することが計画の出発点であるが、その大部分を完了した。収集範囲は、イギリスやアメリカにとどまらず、オランダ、スイス、スエーデンの図書館にまで及んだ。未収集の主なものは、名門イートン校やケンブリッジのトリニティー学寮の資料である。その他少数の未収集資料については、古版本の保存状態がマイクロフィルム撮影に適されない由であるから、収集の見込みはまずないものと思われる。この不備にもかかわらず、現時点までに収集されたマイクロフィルム文献の資料的価値は極めて高い。恐らく他に類例を見ないものと考えられる。 2.本文の分析と批判 電算処理の準備がほぼ整ったのはLLLのみである。喜劇6篇を対象とした当初の計画は2ケ年では実現できそうにもない。それは、1つには、本文校合後の入力作業にかかる手間のほかに、シェイクスピアの場合、他の作家とは桁違いの量にのぼる1次及び2次資料の吟味に予想外の時間を費やさざるを得なかったからである。 3.覚え書き文献の収集 明星大学図書館所蔵の2つ折り本の1冊が全巻にわたって欄外余白に詳細な書き込みをもっていることが分かった。書体から判ずるに、1600年以前に文字を学習した人の1630〜40年前後の書き込みであろう。欄外書き込みとはいえ、900ページを超える2つ折り本であるから、転写にも相当な時間がかかる。今年度は夏休みの数週間を割いて、試みにTp全部の転写を完了した。作品の解釈が主となっているので、当時のシェイクスピア受容の一端を知ることができる。本研究の当初の計画をはかるに越えるものであるが、これはまったく新しい発見であるので、可能な限りの時間を割いて全体像の解明に努めたい。
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