研究協力者との共同化を積極的に進め、「翁久允所蔵資料」を調査・整理し、目録化するとともに、この「資料」と『翁久允全集』等を研究することによって、以下の点を明らかにすることができた。 1.「翁久允所蔵資料」について (1)「翁久允所蔵資料」として、自筆原稿165点、新聞切り抜き3、417点、日記4点、書簡349点あった、(2)自筆原稿は小説、評論、台本、作品の構想メモなどで、完全原稿は少なく、また執筆年月日の不明のものが多い。しかし移民地劇論などは貴重な資料である、(3)新聞切り抜きには『翁久允全集』に収められていない作品がかなりあり、また労働経済問題、日米関係及び政治思想問題の切り抜きもあって、極めて貴重である、(4)日記は1909-1912年のもので、その間、欠けている部分がかなりある、内容はハイスクールの生徒としての孤独感と酌婦との恋である、(5)書簡はすべて来簡で、川島天涯からのものがもっとも多く、48通ある。 2.「初期日系移民地の文学者としての翁久允」について (1)日系文学史でよく知られている、翁の提唱した「移民地文芸」は時代によってその主張に変化があること、(2)翁の描く女性は二世・三世作家の描き切れない、歴史に埋もれた世界であること、(3)翁の作品や論説には激動する時代の変化が大きく影響を与えていること、(4)翁は1919年以降、移民地社会の抱える社会的政治的題を積極的に作品の中に取り上げたこと、(5)翁が活躍したシアトルの日系人社会の形成に経済的発展と各種の団体組織が深く関わっていたこと。
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