現代ドイツ語における文の統語構造は極めて複雑であるが、それは、大量の情報をコンパクトな形で伝達しなければならないといった社会的要請よるものと考えられる。しかし、文の統語構造の複雑化は主として情報の担い手としての名詞に集中していて、動詞句は名詞句を関係づけているに過ぎない。その際、大規模な名詞句である副文は、主文との境界を明確にする必要があり、これが枠構造といった主文とは異なった語順の確立を促したと考えられる。また、これは現代ドイツ語が書き言葉的正確をつよめたこととも関連している。本研究では、初期新高ドイツ語で書かれた散文物語を素材に、文の統語構造の複雑化と枠構造の確立との相関関係をテクスト言語学視点から考察した。その結果、主として次のような知見が得られた。 1)初期新高ドイツ語に頻繁な枠外配置は次のようなテキスト構成的機能を担っている。 i)意味的なもとまりを示す。ii)意味的なまとまりを、(1)リズムを生み出す、(2)耳で聞いて理解しやすいといった語用論的な目的で配置する。iii)特定の意味的なまとまりの焦点化、強調する。iv)情報の補足、繰り返し、言い換えをする。 2)初期新高ドイツ語では、主文と副文の形態的区別は大抵の場合明確であるが、一部の副文には、後景情報を表すといった語用論的機能は認め難く、その点では主文に並列した場合と大差ないと考えられる。 3)句読法、枠外配置、副文などによって示される大小の意味的な単位の配列は、現代語と異なって重層的なものではなく、出来事の時間的な流れに沿った、並列的な傾向が強い。これは、朗読されたものを耳で聞いて理解する物語散文作品という社会的、時代的背景やテキストのジャンルと深くかかわっている言語的特徴である。
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