2年継続の本研究の目標は、ビューラーの言語理論の展開についてのまとまった像を描き出すというものであった。その当初の目標はほぼ達成できたと信じる。それについては研究成果報告書をみていただきたい。 ビューラーの言語理論の展開を、考察の対象となった事項をキー・ワードとして追うとすると、言語機能(叙述、表出、アピール)をめぐる考察から始まり、音韻論の学としての確立に支えられた記号機能に関する考察、そして『言語理論』(1934)そのものと、それ以後においては、科学理論の枠組みで言語研究の位置づけを試みた、と概括できる。 ビューラーの考察は、最終的には、学問体系全体の中で一般記号学、その中における言語理論の位置、そして、さらに具体的な言語研究そのものという具合いに、トップ・ダウン式となっている。これは極めてドイツ的である。ビューラーは、壮大な哲学体系を築き上げたカントを常に意識していたともいえよう。 基礎固めの作業を終えた現在、報告者の頭の中には、ビューラーの言語理論を、その前史、同時代史、後史において位置づけを試みるという構想がある。前史に関する考察として、Ph・ウェーゲナーの『言語生活の基本問題』とビューラーの言語理論との比較対照、同時代のコンテクストにおいては、とりわけビューラーと同じ方向で言語機能に関する理論に基づいて英語の分析をすすめていたA・ガーディナー『発話と言語の理論』との突合せが必須のものとして位置づけられている。 報告者のビューラー研究は、ようやくその出発点をある程度固めたといえるだけである。本格的なビューラー研究は、今後上述した構想に従って、幅を広げて行なうことになろう。なお、ビューラー著『心理学の危機』、R・ハラー著『新実証主義』は、日本語訳を終えたが、出版未定である。
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