研究概要 |
研究の初年度である平成4年度には,モンゴル語版「ゲセル物語」諸本の中で唯一の版本である北京木版本(1716年刊)を取り上げ,そこに用いられているモンゴル文語を正書法,語法,語彙の方面から調査し,その言語的特徴の分析を行なった。 底本には,国立国会図書館支部東洋文庫所蔵の木版本を用い,モンゴル語本文のローマ字転写と訳を作成しつつ,電子化テキストとして利用するため,ローマ字転写文をMS-DOSのテキスト・ファイル形式でパーソナル・コンピューターに入力した。入力したのは,行ごとの葉数・表裏・行数を付したプレーン・テキストであるが,計算機によってその検索および索引作成等の処理を効果的に行なうために,テキストに文法的接尾辞の境界を示すタグを付ける作業を進めた。 これと並行して,正書法に関しては「古典式モンゴ文語」との綴り上の違いに基づき,「ゲセル物語」木版本のモンゴル文語の正書法の特徴を次の様に分類した。 (1)単語を分から書きする分綴法の特徴。(2)第2音節以降の短母音の表記に関する特徴。(3)長母音の表記に関する特徴。(4)「古典式」との子音の表記の違い。(5)同一の単語を様々に表記する「表記のゆれ」の特徴。さらに,個々の単語の表記によってこれらを下位分類し,表記法の分析を進めた。 また,語法に関しては,「古典式モンゴ文語」の規範からはずれた個別の用例を蒐集すると同時に,木版本「ゲセル物語」のモンゴル文語の文法の全体を体系的にとらえるために,電子化テキストの計算機処理を利用しつつ,名詞の曲月(複数,格,所属)語尾,動詞の活用(命令形,終止形,形動詞形,副動詞形)語尾,および後置詞や助詞等の文法的な語彙を中心に,用法と用例の整理を行なった。
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