2年計画の最後の年である本年度は、1716年に北京で開版されたモンゴル語「ゲセル物語」(いわゆる北京木版本)について、電子化テキストの作成とそれを利用した電算機処理による分析研究を行った。具体的には次のような成果を得ることができた。 1.北京木版本「ゲセル物語」のモンゴル語の全文のローマ字転写を行い、これをMS-DOSテキスト・ファイル形式の「電子化テキスト」として利用可能とした。テキストには、頁と行のタグ(第何葉、裏表、第何行)を付した。 2.上記電子化テキストに基づいて、電算機処理を行い、次の索引を作成した。 (1)各単語の出現頻度と出現箇所を付した全単語の索引。 (2)各単語が出現する前後の文脈を付した全単語の索引。 (3)名詞の曲用語尾(数、格、所属語尾)の文脈付き索引。 (4)動詞の活用語尾の文脈付き索引。 これらを利用して、北京木版本「ゲセル物語」のモンゴル語の正書法と語法の分析を行った。正書法では、同じ単語に対する異なった表記法の「ゆれ」の実態を調査し、それらを次のように大別し、さらにそれぞれを具体的に分類整理した。 1.長母音の表記の違い。 2.第2音節以降の短母音の表記の違い。 3.分綴法(分かち書き)の違い。 4.語尾の表記の違い。 語法の面では、古典式モンゴル文語の規範と比較した場合、名詞の曲用語尾よりも、動詞の活用語尾において、この文献に独自の形態が認められた。
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