本研究をつうじて、ポーランドの国有企業私有化法の成立および実施過程において、次のような特徴が見られることが明かとなった。 (1)1981年に導入された従業員自主管理制度が、私有化の構想と手続きの両面で、私有化過程に作用している。 (2)私有化には経済的アプローチと社会=政治的アプローチとがあり、1990年私有化法の制定過程においてすでに、主として前者の観点から立案された政府案に、後者の観点を重視した対案が提起されている。 (3)私有化の実施にともなって、世論のあいだに懐疑的な意見が広がり、このことが世論を動員することの可能な新たな私有化構想を構想することを促した。そのような構想が「全市民的私有化計画PPP」である。 (4)しかし、PPPおよび再私有化法案をめぐる政治諸勢力間の対立のため、私有化をめぐる法制的枠組みの整備は大幅に遅れた。私有化は、1990年の大統領選挙、1991年と1993年の議会選挙における争点のひとつとなった。 (5)社会=経済政策を実行するうえで、労働組合の力を無視することができないため、スホツカ政府は私有化についても労組との合意を追求した。1993年に調印した国有企業についての協定は、労働者に権利を付与しつつ私有化の促進を図る条項を含んでいる。 (6)1993年の選挙結果を受けたいわゆる「ポスト共産主義」2党による連立政権が成立したが、この政府の政策には前政権の政策を継承しようとする面と転換しようとする面とがあり、とくに民主左翼同盟の一部が前者の立場を代表している。 (6)総じてポーランドにおいては、ロシアと比べると、私有化と政治的民主化との相関関係を比較的明瞭に看守することができる。
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