本研究は、英米法思想を知識社会学の手法を用いてわが国と比較研究することを目的として、3つの課題を設定した。今年度は、「なぜイギリスでは裁判官が法思想の担い手になり、なぜアメリカでは、裁判官と並んで法学者が重要な役割を果しているのか」という課題を中心に検討を進めた。その手がかりとして、イギリスのアティア教授とアメリカのサマーズ教授の書物を詳細に検討して、法及び法思想を支えるイギリスとアメリカの法律家社会の構造が異なることを確認した。その成果の一部は、比較法史学会の機関誌に発表した。また、現在アメリカのウィスコンシン大学のロースクールで、講演などを通じて日本の情況を説明すると同時に、アメリカの現状把握につとめている。 研究対象時期のイギリスの法と社会の関わり、とりわけ法と経済発展との関わりについては、イギリスのシュガーマン教授の研究を手がかりにして考察を行った。また、1991年末に来日したシュガーマン教授との共同研究セミナーをきっかけとして発足した「法文化研究会」においては、月例研究会に参加して比較法思想史的な研究を進めた。そこでは、とくに、イギリス、アメリカ、ドイツ、日本の法律家社会の特微分析を行った。研究会の成果の一つとして、シュガーマン教授の論文集の翻訳を行い、現在出版準備に入っている。 イギリスの裁判官の思想研究は、準備段階に留まっており、次年度以降の考察対象としている。アメリカの法学者と裁判官の思想については従来より研究を積み重ねているが、全体のまとめは次年度に行う予定である。
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