ドイツの住民投票制度は、連邦レベルでは、領土の再編成に関する2つの場合に限定されている(基本法29条および118条)が、ほとんどの州憲法(ベルリン、ハンブルク及びニーダーザクセン除く)は、州民請願(発案)及び州民投票を通じて、州民が立法に直接参加する制度を規定している。アメリカやスイスの制度と比較して、この州民立法制度の主要な特徴は、第1に、法律案は直ちに州民投票にかれられるのではなく、まずは議会の議決を経なければならないこと(間接的請願)、第2に、議会が無修正でその法律案を議決しない限り州民投票が実施されなければならないこと(条件付義務的投票)である。さらに財政問題に関して州民投票は許されず、また州民請願の実施のためには、法律案に対する形式的かつ実質的(基本法・州憲法適合性)審査が州政府などにより行われる。この実質的審査はわが国では消極的に解されているが、ドイツでは学説・判例ともに憲法上問題なしとしている。本研究の主たる対象としたバ-デン=ヴュルテンベルク州においては、この制度は憲法制定会議(1954年)ではワイマ-ル憲法期の経験に鑑みて否決されたが、その後バイエルン州等の有意義な経験にも触発されて、1974年の憲法改正により導入された。州民請願は有権者の6分の1の同様、州民投票は有効投票の過半数及び有権者の3分の1の同意を要するが、成立要件が厳しいこともあってか、従来この制度が利用されたのは1985年に1例あるにすぎない。この州民請願は、ABC兵器の撤去等を州政府に義務づける内容であったが、内務省はその法律案が基本法及び州憲法に違反するとしてその実施を不許可とし、また憲法裁判所も首相や政府の政治的方針を法律により確定することは許されないこと等を理由に、その不許可決定を支持した。本研究は、さらに同州の市町村レベルにおける住民投票制度に関して継続する。
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