わが国の企業集団において認められる環状的株式相互保有は、企業取引社会における構造的閉鎖性、排他性、不透明性の原因となっているとの批判があったが、それらの批判に対しては、日本構造問題協議を通じて主に独占禁止法上の対応措置が講じられてきた。しかし、十全な対策が講じられたわけではなく、本研究は、この問題を直視し、主として会社法上の立法論的検討を行い、併せて独占禁止法上の課題についても論及したものである。会社法上の研究成果の要点は以下のとおりである。すなわち、会社法上の問題点としては、第1に株式取引の不公正、第2に企業間取引における株主平等原則違反あるいは取締役の義務違反問題等があるが、これらについては現行法による行為規制が基本的に妥当する。第3に、現行法制では必ずしも十分な情報開示がなされておらず、開示規制の強化を図り透明性を拡大する必要がある。第4に会社支配権の歪曲化や「稀釈化」が問題となるが、これに対しては個別の構造規制によるよりは、コンツエルン規制を立法化しその一環として対応することが適切である。また大規模株式会社の権限分配に係る法構造を再検討し、平成5年改正商法が定めた監査体制をさらに強化すべきである。株主固定化による証券市場への悪影響も問題であるが、この点に関しては配当性向上のための抜本的施策を検討し、その中で株式相互保有関係にある場合の対応を考慮すべきである。なお、独占禁止法上の課題としては、現行の株式所有審査基準では審査範囲が限定的であり、また規制基準が明確とは言えない面があることから、審査基準を再編成し株式所有による当事会社の地位の有利性の程度や参入障壁増大の程度の把握に関する指標等の明確化を図るべきこと、および実態調査を継続するとともに企業集団構成企業間で行われる販売等の協力関係についてもその実態をより詳細に調査すべきこと等を指摘することができる。
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