研究概要 |
1980年1年間に,わが国において犯罪を犯しながら精神障害を認められて不起訴処分を受けたり,裁判官によって心神喪失ないし心神耗弱を認められた精神障害犯罪者総計963例について,精神鑑定の実施状況及び責任能力の判定の実態を調査し,これまでに次のような結果が得られた。 963例のうち,精神鑑定の行われていなかったものが222例あった。精神鑑定の行なわれていた741例中517例は,捜査段階において簡易鑑定が行われ,鑑定留置を伴う正式鑑定の行われていたものは275例にすぎなかった。 963例の精神障害犯罪者中554例は精神分裂病であったが,このうち殺人の119例と傷害の96例については,事件記録にもとづいて詳細な調査を行うことができ,次のような問題点を明らかにした。 1.わが国の精神障害犯罪者の大多数は,捜査段階で検察官による不起訴処分を受けているが,その際,精神医学的判断に用いる資料の収集方法及び利用方法、評価規準等が担当検察官によって大きく異なる。 2.診断及び精神鑑定に関わった医師の側にも,司法精神医学的な知識、経験の不足にもとづく問題が認められる。 3.一般の医療施設では精神鑑定の実施が困難になってきいるが,正しい結果を得るためには鑑定留置の場所の確保が必要とされる。 4.実施された精神鑑定の結果が,その後の精神障害犯罪者の処過に生かされるよう,制度上の改善が必要とされている。
|