研究概要 |
本年度は、主として対象時期における官僚制の問題と、バルト海沿岸諸県(エストラント,クールラント,リーフラント)のロシア化の問題に絞って研究を行った。官僚制研究に関しては、それが最も進んでいるアメリカ合衆国の研究動向を整理・把握することに努め、論稿を発表した。ここで明らかになったことは、最近のアメリカ合衆国のロシア官僚制研究が、改革派と保守派の対立にすべてを帰着させるような政治的な見方から徐々に離れて、ロシア官僚制の現実の構造と機能・能力、それが担い手となった改革の原因と結果をより多面的かつ客観的に考察するようになってきているということである、帝政期のロシアを、単に抑圧的な官僚制国家とか、西欧諸国より著しく遅れた後進国とだけ規定して議論することの不毛性は今や明らかである。 バルト海沿岸諸県のロシア化に関する現在進行中の研究は、こうした認識に立った事例研究であり、ロシアの官僚政府を取り巻く状況をできる限り具体的・多面的に解明することによって、ロシアの官僚政府がその独自の論理に従って発展するときに、どのような政治的未来の種子を胚胎していったかを明らかにしようとするものである。バルト海沿岸諸県のロシア化をめぐる問題というのは、大改革期以後のロシアの政治・行政発展を見る上で重要な論点を集約的に含んでいる。第一に、60年代の大改革の適用範囲の地域的拡大(行政機能の民間依存とそのための条件)、第二に、身分と民族(保守主義と貴族主義)、第三に、ジャーナリズムと政府の関係、第四に、政治と宗教(ロシア正教とカトリック,ルター派)、第五に、国際関係(殊に独露・露仏関係)と国内問題といった論点である。本年度の研究を通じてこれらの論点がかなり具体的に浮かび上がってきた。これは本年度の研究の成果であり、次年度以降の研究はこれらについての認識を深める形で進められるであろう。
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