平成5年度は大改革時代における貴族と貴族主義という観点から研究を進め、一応の成果を挙げることができた。特に地方貴族の政治的態度と行政的役割という点に関心を集中し、ニジェゴロト県について事例研究を行って、その成果を「ロシアにおける農奴制の廃止と地方政治」として『阪大法学』に発表した。10月にはロシア史研究会の年次大会において上記のテーマで報告を行った。この報告は、その後加筆修正の上、1994年7月に刊行される『ロシア史研究』に発表する予定である。そこで明らかになったことは、貴族が改革後の時期において必ずしも積極的な政治行動に出る動機をもたなかったことである。特権維持の要求というのは一部貴族のイデオロギー的動機から出たものであり、政治参加の制度化についても貴族の多数はそれほど強い関心をもたなかった。イデオロギーとしても、19世紀後半の貴族主義は脆弱であった。 方法論に関する考察も進め、思想史、社会史、政治行政史の三者を組み合わせた研究の必要について考えをまとめるにいたった。これを1994年3月に北海道大学スラブ研究センター地域文化部門研究会(「日本のロシア史研究の現状と課題」)で報告した。 この過程でさらに大蔵省の貴族政策について、徴税の委託、土地信用の制度化という面からさらに認識を深めることの必要が明らかになった。貴族に域管理の担い手を求める内務省の貴族政策については、平成4年度以前から研究を進めて一応の成果を見るにいたったが、大蔵省についてはなお十分に検討されていないので、これを今年度後半から次年度にかけての課題としたい。
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