研究概要 |
今年度は企業間の戦略的連携関係の経済分析を (1)先端技術の共同研究開発 (2)系列化の経済効果 (3)競争政策の国際的調和化 という3つの焦点を設定して行った。このうち、課題(2)と課題(3)に関しては、《グローバルな競争政策》と名付けられた国際会議に論文を提出して、現在最終版を作成するために作業を急いでいる段階である。この報告では、成果が最終的にまとまった課題(1)に関して、その概要を述べる。 まず、共同研究開発がもつ経済効果を厚生経済学の視点から明らかにする作業を行い、"Cooperative and Noncooperative R&D in an Oligopoly with Spillovers"という論文をAmerican Economic Reviewに公表した。この論文は、寡占的競争に従事する企業が技術開発段階で共同してそのR&D投資を調整することが、産業の経済厚生の観点から望ましい成果を生む条件を明らかにして、技術政策のあり方に関しても示唆した理論的成果である。この研究では、産業内で寡占的競争に従事する企業の数がさしあたり一定とされる状況を取り扱ったが、その後新規企業の参入や既存企業の退出の可能性を認めた3段階モデルの研究に進み、"Symmetric Cournot Oligopoly and Economic Welfare:A Synthesis"という論文を完成して、Economic Theoryに公表した。この論文では、参入・退出決意を行う第1段階、R&D投資決意を行う第2段階、生産物市場での競争を行う第3段階を通じる部分均衡サブゲーム均衡において、社会的に過剰な企業の参入が生じることを理論的に論証している。 これらの成果を含む寡占的競争と経済厚生に関する研究はCompetition,Commitment and Welfareというモノグラフにまとめられた。この基礎にたって、課題(2)、(3)に関する研究を最終版に完成させて、このプロジェクトの成果を世に問う所在である。
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