本研究は、調査対象企業の海外生産を支援する親工場と本社の役割をテーマとしており、とりわけ生産現場の技術移転の問題を焦点としている。インタビューなどの実地調査を通じて明らかになった、技術移転における本社・親工場の役割と意義は以下の通りである。 1.製品技術・生産設備・部材など日本からの出来合いのモノを移転する「モノ結果」の移転が現地工場のパフォーマンスを支える重要な要因となっている。 2.設備の保全、品質管理など「モノ方式」面での技術移転を重視しており、またかなりの成果をあげている。その際、親工場からの日本人出向者はもちろん、出張ベースで派遣された日本人要員の果たす役割が大きい。 3.上記の「モノ方式」面を中心とした教育訓練に力を入れている。訓練はOJTはもちろんであるが、基幹要員を日本の親工場に長期間派遣して実地に訓練する方式がしばしばとられている。おそらく、教育訓練への金銭的・非金銭的投資が際立って大きいのが日本の多国籍企業の特色であるといって良いのではないか。 しかし、こうした技術移転には、以下のような問題点もまた見逃せない。 1.「モノ方式」に比べて多能工化や参加型経営といった「ヒト方式」面での技術移転は進んでいない。それが、部門間の連係プレーを通じた品質や設備などへの異常への対処能力を低めている可能性がある。 2.「モノ結果」への依存は、受け入れ国にとっては対日貿易赤字、現地工場にとっては高コストをもたらしている。 本社や親工場の権限が強すぎて、現地従業員のモチベーションを阻害したり、日本側にかかる情報処理の負荷が大きすぎるという問題点がある。
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