平成6年度は3年計画の最後にあたり、本研究全体のとりまとめに向けて次のような研究活動を行った。 (1)前年度及び今年度を通じて国内、アメリカの自動車、電機企業やその工場訪問(アメリカの場合は、別件の文部省大学院高度化推進特別経費および民間の調査プロジェクト経費による)を通じて収集した各種のデータを、産業技術の国際移転の比較という観点から整理、加工、分析に努めた。 (2)日本企業の国内における自動車および半導体工場について、バブル崩壊と新たな円高という最近の局面における変化に注目して調査し、日米比較の中に組み込む努力をした。明らかに、一方では、一頃の設備主導の過大な自動化路線を修正し、よりきめ細かくヒトの技能を活用する、日本的方式のもっとも重要な特徴と考えられる方向をより強めつつあるが、他方では、高齢化、女性の増加、よりオープンな企業間関係など、日本社会のおかれた新しい環境への対応という、日本方式の“国際化"の側面もみられた。 (3)アメリカにおける日本企業とアメリカ企業の工場調査から得られたファクトファインディングスの分析を通じて明らかになりつつある中間的見通しとして、次の諸点がある。1)日本企業工場は、本国とは大きく異なる経営環境の中で困難な現地適応の経験を積み重ねて、4年前の調査時と比べて、日本技術の「結果」(日本人と部品)の持ち込み度合いを減らしつつ(現地化の進展)、日本の「方式」をより多く適用するという、技術移転の望ましい方向に向かっていることがわかった。2)アメリカ企業の工場は、その国内及び海外工場において、日本的システムのいくつかの基本的な諸要素-より協調的な人の組織化と運営、プロセスと長期的な積み重ねを重視する工程管理や調達体制など-を積極的に導入し、それが“復活"の重要な一因になっていることがわかった。 (4)以上のことから、日本及びアメリカ、またアメリカにおける日本企業工場及びアメリカ企業工場の双方において、主として日本システムの国際移転を媒介として、日米における対極的な経営・生産システムの距離を狭める方向での一種収斂現象が観察されるのは、きわめて注目すべきことである(もちろん、両者の間になお残る差異は競争優位を決める決定的要因の一つであり続けるが)。 現在、以上のような本年度の研究成果と先行する2年度の成果を総合して、本研究全体のとりまとめに取り組んでいるところである。
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