わが国の企業福祉は2つの条件によって大きく変化しようとしている。1つは、定年制や終身雇用制など雇用管理に変化がでているためである。もう1つは、パートタイマーやアルバイターの急増に見られるように就業形態に変化が起こっているためである。これらの動向は労働力の「定着」を目的とする従来の企業福祉の理念や方法との間に機能的ギャップが生じていることを物語っている。そこで、労働市場の変化の程度と各企業の対応の仕方を探ることを目的として実態面と理論面に分けて調査・研究を実施した。 本年度はとくに第三次産業に属する金融・流通産業を軸にして調査をおこなった。これは日本的経営で知られる第二次産業の優良企業が長期雇用を前提にして企業福祉を展開しているのに対して、労働力の流動性が相対的に高いサービス・流通業での動向を把握したかったからである。 また、アンケート調査や聞き取り調査の結果を点検しながら、補完的な調査を実施するとともに、新しい企業福祉の理念と方法を導きだすために、先進国であるアメリカの企業福祉の構造と動向について文献・資料的に調査研究をおこなった。とくにわが国では自社株の保有が解禁されたことから、「従業員持株制度」の動向が注目されているが、この面でも先進国であるアメリカのESOPを中心に研究を進めた。また、アメリカでは「健康保険」も企業福祉の重要な給付内容であるが、この健康保険改革問題についても検討を加え、論文として公表した。
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