日米知的所有権粉争の全体像をつかむには、政府レベル、企業レベルの双方に目配りしなければならない。当初予定にしたがって、その両レベルでの日米の軋轢の歴史と現状を明確にするための作業に取り組んだ。 すなわち、第一に、日米両国における知的所有権制度ならびに運用基準の史的変遷と現状の把握に努めた。そのこと自体が、現在両国間に残されているハーモナイゼーション上の懸案事項の確認につながった。ただし、発展途上国を含む全世界的規模でのハーモナイゼーションのあり方を考える上で重要だと思われるウルグアイ・ラウンドのTRIP交渉、WIPOの特許調和条約交渉等についての立ち入った考察は、今後の課題として残されている。 第二に、日米の民間レベルの知的所有権粉争について代表的な事例のサーベイをおこなった。これを通じて、各ケースの個別的特徴だけでなく、全体としての大きな趨勢もある程度明らかになってきた点が、新たな知見として特筆に値しよう。以後も引き続いてより鮮明な把握を目指すことになるが、1)対日知的所有権攻勢をかけるアメリカ側の主体が、日本企業と製品シェアを争う競合企業だけでなく、特許を保有していても関連製品をつくっていないメーカーや個人発明家にまで広がってきている事実、2)まだ製品ができていないアイデア段階で特許申請がなされたり、機能の未分明な遺伝子が出願されるといった早期の技術囲い込みが目立ってきている事実、が注目される。特許制度の変質をもたらしたり、アメリカの国策としての産業競争力強化の方針に背反したりする可能性がある変化なので、その客観的意味を注意深く検証する必要があるものと考える。
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