1.1982年のIBM産業スパイ事件以後、日米企業間の知的所有権紛争が多発するようになった。本研究では、それらの主要事例(コンピュータOS、アモルファス合金、光ファイバー、半導体、カメラの自動焦点機構等をめぐる紛争)についてケース・スタディをおこない、事実関係の明確化に努めた。 2.1を土台にして、日米知的所有権紛争(民間レベル)の全体的なトレンドの究明を試みた。紛争領域のハイテク産業全体への拡張、サブマリン特許の脅威の存在、アメリカの特許裁判の動向(均等論の普及と損害賠償の高額化)等が明らかになったが、それらは日本企業にとっての困難が一過性のものではなく、今後も続く可能性を示唆している。 3.日米企業間の知的所有権紛争は、日米両国の知的所有権制度のあり方と密接にかかわっている。その関係を意識しつつ、制度調整をめぐる政府レベルの対立と妥協についての実態究明にあたった。なお、ガットのウルグアイ・ラウンドやWIPOにおいても知的所有権制度のハ-モナイゼーションをめぐる国際交渉がなされてきたので、それらの特徴と問題点の検討作業もおこなった。 4.留意すべきことに、日米の民間レベルの知的所有権紛争は、両国企業間の提携関係の発展を促す要因となってきた。また、政府レベルでの制度調整の動きは、それ自体、日米政策協調の新たな前進を物語る。対立の日本にとっての重大さと当時に、対立を通して協調が進む関係にも注意を寄せることが、問題解決の方向を探る上で重要だと思われる。
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