この研究は、1980年代のME化の進展の下で雇用構造がどのように変化し、それが労使関係へいかなる意味をもったのかという点について電機産業を中心に分析することが課題であった。ME技術革新は自動化を進め、生産力を飛躍的に増大させたが、そうしたなかで、電機産業の生産過程では、作業工程が再編され、職務範囲が拡大する一方、要員増は抑制されたため、一人の仕事量が増える傾向を示している。同時に、技能の変化が労働者の異動を促進するとともに、生産過程での省力化は生産工程労働者を減少させ、全体として従業員構成のホワイトカラー化を進めた。さらに、生産の海外移転は、国内の生産・分業体制の再編を促し、地方工場などの撤退・縮小、人員整理などをひきおこした。こうした雇用の構造変動は、生産が拡するなかで失業問題には結びつかなかったが、中高年労働力を中心に配転、応援、派遣など労働力の流動化を進めた。一方、経営側は、人事システムの再編、年俸制導入や選別的な教育訓練体制などを通じて「能力主義管理」の徹底をはかっており、これが労働者間の競争を促進している。また、業務量の増大の下で要員は抑制されており、技術開発部門をはじめとして要員不足が深刻化し、残業や休日出勤の増大、休暇取得の困難などの問題をひきおこしている。こうしたME化とその下で雇用構造の変化にたいして、産別組織の電機連合は、ME化を受け入れつつ、雇用の減少や労働条件の悪化を規制するとともに、ME化の成果配分を求めるという基本政策を策定している。しかし、傘下の組合は、事前協議は実施しているものの、組合員からの要求は大きい要員問題を規制できておらず、それが休日出勤、有休問題や時短などの問題の解決を困難にしている。要員問題は雇用確保の基盤でもあり、労働組合がこの問題に対応できていないことは、その政策にもかかわらず、ME化を十分に規制できていないことを示している。
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