今年度は、わが国における医療利用組合の歴史的発展の第二段階、いわゆる広区単営組合時代の特徴付けを中心に研究活動をすすめた。初期の四種県営組合による医療事業および歴史的発展段階の第三段階、連合会時代との比較を重視した。広区単営組合時代幕開けの歴史的背景、発展過程、広区単営組合の評価をめぐって、外形的特徴づけ、そして個別具体の分析を行なう予定であったが、とりあえず、発展過程、評価をめぐって、外形的特徴付けの部分を「都市-農村共生型医療利用組合の展開--広区単営組合時代の幕開け」としてまとめた。この論稿において「全国医療利用組合及連合会」全国調査の分析を(1)組合員数、出資金からみた規模、(2)医療サービス生産過程編成-設備と労働力、(3)組合員組織率と職種別構成、(4)組合員の事業利用状況、(5)事業区域の特徴-都市と農村、について行なった。そに結果「広区単営組合は、それが登場してくる歴史的情況を反映して、都市地域における俸給生活者や賃金労働者など産業組合運動にとって新しい社会的エネルギーを内包していた。四種県営組合とは異なる組織形態をとらざるをえなかったのもそれ故であったし、都市-農村共生型医療利用組合の形成を可能にした要因であった。しかも、こうした新しい社会階層のエネルギーは新興消費組合運動などと同様に『協同組合主義的社会改造』に通底するものであった。さらに四種県営組合のような総合産業組合とは対照的に、保健・医療ニーズにもとづく専門産業組合=アソシエーションとしての広区単営組合は、その事業を成立させるためには、規模・資金力・組織力量を高めざるをえなかったし、そのことを通じて組合員の参加=アイデンティティを向上させ、組合員自らの、そして地域社会の保健力の発達を促していったといってよいであろう。こうした意味で広区単営組合はかつての医療医療組合の指導者黒川泰一がいうように『土中から躍りだした龍』であったと評しても過言ではないといえよう」という内容の結論がひとまず得られた。
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