本年度の研究を通じて、以下の課題を実施した。 (1)公共土木事業において発生した諸労働争議の歴史的性格について検討し、その成果の一部を論文「失業救済事業をめぐる行政機関間対立とその背景」として発表した。 (2)公共土木事業に就労した労働者の性格について把握するために、失業救済事業の登録労働者についてその社会的性格・属性(出身地域、出身階層、年令、職業史、家族関係等)に関する中央・地方の資料類を網羅的に収集し、解析した。 (3)都市における公共土木事業と農村におけるそれの関連を明らかにするために、昭和恐慌対策として実施された救農土木事業の成立事情について、政策当事者の判断と当初の構想、地方行政のそれへの対応、農村諸階層の参加度合、就労予定者層の動き等を考慮しつつ分析し、その一部を論文「救農土木事業の立案事情」として発表した。 (4)国民経済および各地方経済における土木事業の比重、土木事業全体に占める公共土木事業の質的・量的比重については、基礎的な統計データの収集・加工を終えた。その分析を通して、公共土木事業が有した直接的および間接的な景気刺激効果を評定する作業が残されている。 (5)国際比較のために、アメリカのニューデイール政策期の公共土木事業についての資料を収集し、就労者決定の基本方針の推移について解明した。しかし、それをめぐる具体的事情を日本についての検討と同レベルの密度で実施することは、刊行文献の範囲では不可能であることが判明し、今後の課題として残すこととした。
|