2か年度の研究によって下記の点を明らかにした。 (1)公共土木事業の事業規模に関する諸統計は相互に著しく不整合であるので、これを事業種類別・府県別・財源別に積み上げ、補助金の重複計算を修正するなどして、ほゞ信頼可能な時系列統計を作成し、国民経済に占める公共土木事業の比重の推移と景気変動との関係を明らかにした。この結果は近く公表する予定である。(2)失業救済事業および救農土木事業について政府による立案経過を資料にもとづいて実証的に把握し、その成果の一部を論文「救農土木事業の成立事情」として発表した。(3)各地方自治体ごとの公共土木事業の内容・実施方法の特徴を大都市・主要府県にそくして相互比較し、異なる事業方式・就労者選別方式が採用された背景として、各地の失業者の人数・構成と失業問題の性格が異なっていたことを明らかにし、その結論の一部を論文「失業者救済公共土木事業における就労者選別方式と朝鮮人労働者」として発表した。(4)公共土木事業に就労した労働者の就労実態・労働条件について検討し、賃金水準をめぐって発生した争議の事例分析を行い、その成果を論文「失業救済事業をめぐる行政機関間対立とその背景」として発表した。(5)地方の土木請負業者と彼等に雇用されていた労働者の性格を明らかにし、彼等が失業救済事業の就労者とはその社会的性格が大きく異なることを実証した。それによって、公共土木事業を自治体直営方式で実施することによって、従来からの土木労働者の失業問題が新たに発生する事情が具体的に理解された。
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