前年度にひきつづき、韓国政府記録保存所所蔵の「倭政時被徴用者名簿」(強制連行者名簿)を分析するため、名簿の整理およびコンピュータ入力を行い、現在集計中であり、来年度、成果をまとめることになっている。 他方、私はこれまで、朝鮮人強制連行の「強制性」の意味は、物理的・人格的強制にとどまらず、植民地下の法的強制性にあることを主張してきた、これに対し、日本の朝鮮支配は植民地ではなく、軍事占領(強制占領)であり、したがって、日帝時代に公布されたすべての法律、命令は合法性がないので強制連行に関する動員命令は法的根拠を欠く、とする意見が北朝鮮、韓国から提起された。その根拠は、1905年「第2次日韓協約」調印が政府間の合意ではなく、国際法に違反した脅迫による強制が行われたため、当初から無効であり、それを前提として1910年に締結された「韓国併合条約」も無効である、というものである。この問題は、日本の朝鮮統治をいかに規定するか、という大問題であるが、私がテーマとする強制連行・労務動員も植民地政策の一環として行われたと考えてきたから重大な関連があるので、本年度の研究の一半をこの研究に向けた。 研究結果は裏面記載の2論文で発表した。要約すれば(1)「第2次日韓協約」強制調印は国際法に違反する。(2)北朝鮮、韓国の研究者が指摘する協定書の形式的欠陥については、他条約と対比検討した結果、当時の慣習からみて、一応、合法的形式をととのえている。(3)韓国保護国化は「第2次日韓協約」で始まるのではなく、1904年「日韓議定書」および「第1次日韓議約」が起点である。(4)保護を与える国として韓国の独立保障の義務をもつことになった日本は韓国を征服して領域を取得することができず、世界史上稀な併合形式をとらざるをえなくなった。等の諸点を明らかにした。
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