1.本年度の研究によって以下の成果を得た。(1)フリンジ・ベネフィット(以下、FBと略称)に対する現行日本の課税方法は実質的に、所得税非課税、社会保険料免除FBの供給コストの完全費用控除方式である。この方式は税制なき場合よりも、企業によるFB供給を推進している。この点を企業による報償形態選択行動に基づいて理論的に基礎づけた。(2)現行課税方式を中立的な課税方法に改めるには、FBの供給コストの費用控除を一部否定する方式の採用が最も望ましいこと。(3)従来理論的に高く評価されてきた、FBの便益を個人所得税の課税所得に算入する方式は、社会保険料節約効果を相殺できないという欠陥をもつ。(4)また、最近注目されている費用控除の完全否定方式やオーストラリア方式は、わが国の個人所得税率・社会保険料率・法人税率の水準を所与にするとFBの供給に対して逆中立的に作用する公算が強い。(5)企業収入増大効果を全く持たない純粋報償として機能するFBの場合、(2)による費用控除否定割合は、企業の報償形態選択に関する最適化行動を仮定すると、法人税率個人所得税率・社会保険料率のみに依存する。(6)(2)の方式による法人税増収は、個人所得税率引下げに用いるのがよい。このことにより、(2)の方式は、課税の中立性のみならず、公平性の確保に対しても貢献できるからである。2.以上の分析は、(1)FBのうち、現物給与と称される部分のみに適用されるものであり、(2)また、きわめて単純な企業の報償形態選択行動から導かれたものである。保険に関するFBや、企業の資産選択行動に着用することにより、以上の分析を更に発展させる計画である。
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