中国の流通システムに関する研究はこれまであまり行なわれていない。それは毛沢東時代のほぼ30年間にわたって、中国はマルクス主義の影響を強く受けて、流通分野、とりわけ商業は社会的価値を生み出さないものとして蔑視されてきたことによる。ところが、改革・開放とともにこの呪縛から脱却がみられるようになった。中国経済の市場化や国際化が進んでいくにともなって、物(商品や物資)の流れが頻繁になり、これが経済発展とともにその速度を増すようになってきたからである。そして、高度経済成長とともに国民の所得が増えて、消費ブームもみられるようになっている。毛沢東時代とは隔世の感がして、流通革命の到来を予感させる。それほど、現在の中国の流通分野に大きな変化が起こりはじめているのである。 本報告書は、商品や物資の流通システムの流れを明らかにし、なかでも小売り・サービス業についてさらに詳細に考察している。さらに流通とかかわる価格とインフレーション、物流システムについてもふれている。市場経済化が進んでいけば価格体系もこれに対応しなければならず、そのため従来の統制価格からの開放、すなわち自由化がおこるようになる。これは他方でインフレーションという厳しい社会問題を引き起こすため、この問題については第5章で言及した。また、流通は交通・運輸・通信といった物流インフラの整備についても第6章で新たに取り上げることにした。広大な中国でくまなくインフラ整備をしていくことは現在ほとんど不可能であるが、流通の発展にともなって拡充していくものであるから、現状を把握しておくことは必要性である。 この研究はまた緒についた段階であり、今後盛んになっていくことは間違いなく、その意味では、本報告書がこの分野の研究への足掛かりになってくれれば幸いと考えている。
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