前年度に引き続き、活動的銀河の中心核領域における活発な天体現象に対するブラックホール磁気圏モデルの研究を行った。その際、磁気流体力学によるプラズマ粒子の運動と磁力線の形状を明らかにするために、磁気圏を次の3つの領域に分割して考察を進め、前年度において得られた成果をより発展させていった。 1.ブラックホール近くのプラズマの降着流領域:粒子エネルギーと比較して磁場エネルギーの優勢なブラックホールの表面近くでは、磁気音波の励起はプラズマ粒子の運動に大きな擾乱をもたらす。この擾乱の強度の空間分布と伝播を解析し、磁気圏の回転軸方向への磁気音波の集中という現象を見出した。これは回転軸方向に沿ったジェット状の噴出流を引き起こす機構の1つとして興味深い結果である。 2.プラズマの噴出流が占める遠方の領域:超相対論的なエネルギーを持った噴出流の遠方への伝播に伴う磁力線の形状変化の解析を進め、特に、磁気中性面をなす赤道面の付近における磁力線の振舞を明らかにした。そして、噴出流のジェット的な構造に対する赤道面上での境界条件を確立した。 3.降着流と噴出流の境界領域:磁気圏内へのプラズマの供給機構として、ジュール散逸過程による降着流と噴出流の湧出というアイデアを提案した。今年度においては、ブラックホール近傍からのX線輻射に関連して、その境界層の構造を詳細に調べ、プラズマ粒子の生成に伴う熱流の発生と輻射への転化を評価した。 今年度は本計画の最終年度に当たっており、これらの研究成果はいくつかの論文にまとめられていく予定である(一部は既に学会誌等に発表済み)。ただし、各領域について得られた知見を総合し、ブラックホール磁気圏の全体的・統一的モデルを構築することは今後の課題として残されている。
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