第一に、原子核を標的とするハドロン生成反応を、グリーン関数の方法を用いて理論的に考察した。まず、歪曲波撃力近似(DWIA)においてハドロン生成反応断面積は原子核におけるハドロンのグリーン関数の虚部を用いて表されることを示した。また、グリーン関数の虚部の二つの部分への分離とそれぞれの部分の物理的意味を明らかにした。ハドロン生成反応断面積の和則についても考察した。次に、グリーン関数の特異性とハドロン生成反応断面積のピークの関係、特に不安定束縛状態(UBS)について考察した。グリーン関数の方法をΣハイパー核・Σ原子・深く束縛されたπ原子の生成反応に応用し、実験結果との比較を行った。π原子生成反応については、グリーン関数の方法をクライン・ゴルドン方程式に従う粒子の場合について拡張した。これらの成果を総合報告としてまとめた。 第二に、ハドロンの核物質中でのふるまい及びハドロンと核子との相互作用をQCD和則を用いて考察した。QCD和則を用いて計算した核子と核子の散乱長は実験値と定性的に一致すること、ハイペロンと核子の散乱長は核子と核子の散乱長に比べて小さくなること、π中間子と核子の散乱長はカレント代数による関係式に一致すること、K中間子と核子の散乱長はカレント代数による結果とΛ(1405)の寄与だけ異なりK^-P原子の実験結果と一致することを見いだした。 第三に、高エネルギー重イオン衝突におけるハドロン生成を調べた。時間に依存する平均場の方法で時間発展を定式化し、シグマ模型を用いて、局所的にエネルギーが集中した(高温相にある)状態を初期条件とし、時間の経過とともにどのようにエネルギーが分散し(低温相に移行して)ハドロンが生成されるかを調べるための予備的な考察を行った。
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