藤川は過去における二次元重力理論の量子的側面の研究を発展させ、量子異常(アノマリー)の量子重力理論における役割の解明を試みた。具体的には、三角格子で正則化したいわゆる力学的三角分割法と連続多様体上で定義された通常の量子重力理論のより直接的な関連の解明をめざした。特に、三角分割法でいわゆるWeyl量子異常とかLiouville作用がどのように表現されるのかの解明を試みた。この過程で重力理論における座標系とか座標条件と呼ばれるもののより深い理解が得られた。量子異常の応用という観点からは、藤川はまた(強い相互作用のゲージ理論である)QCDにおけるβ関数のFeynman図によらない簡単な導出法を与えた。これは、Weyl対称性に付随する量子異常の計算法に基づいている。上記の研究と平行して、過去数年続けてきたトンネル効果の定式化の研究も進めた。これは、標準理論におけるバリオン数の破れにも関係する問題であるが、通常のインスタントン法の適用限界を明確化し将来の研究の基礎を与えた。また最近は、素粒子のカイラル対称性と関連して実験的にどの程度カイラルなフェルミオンが自然界で実現されているかをb→sγを用いて研究した。 久保は、場の理論をより拡張された位相空間で定式化する処方箋に従い量子異常および異常交換関係の定式化を与えた。この方法は広い範囲の問題に適用でき、具体的には二次元重力理論に適用して、ゲージに依らない量子重力理論の定式化およびブラックホールの蒸発の問題に関して新しい知見を得た。 本研究計画のまとめとしては、一応初期の目標にそった研究ができたと思うが、また一方では、バリオン数の量子的破れという基本的な問題のより見通しのよい定式化という点にかんしては将来の研究課題として残されたことになった。
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